地鶏と純血

旭日雄鶏図

思い出したように書く。


ある飲み屋で後輩たちと飲んでいたある日のこと。とりあえず串を4本を注文した私に、ふとした疑問が降っておりた。

「地鶏って…何?」

その夜は様々な憶測が飛び交うばかりで、結局その疑問に正しい答えを与えられる人間はいなかった。

地鶏とは何か。地鶏の「地」とは一体どういう意味なのか。それまで私は、地元産の「おいしい鶏」なんだろう程度にしか考えていなかったのであるが、道路脇に咲くタンポポのように誰もが素通りしてしまいそうなこの疑問の前で立ち止まった瞬間、私は足に杭を打ち付けられたような心地がした。看過してはならない。この疑問は決してないがしろにしてはならない重大な問題だという気がしてならなかったのだ。

考えてみれば、「地鶏だからおいしい」というロジックは、以前記事にした「1/f・マイナスイオンだから人に優しい」とぴったり符合する性質を持っているではないか。「地鶏って正直何なのかよく分からないけど、地鶏だからきっとおいしい」とか、改めて文章にすると意味不明なのだが、その実このような奇妙な論理は日常世界のほとんど至る所に潜んでおり、やっかいなことに何かしら正当性を帯びているように聞こえてしまうものだ。


いつもの長い前置きはこれくらいにして、このご時世Googleがあれば万事解決である。やきとり.co.jpによると、地鶏の定義は以下のようなものになっている。

血統
「地鶏」をとりあえず定義すれば古来より日本にいたといわれる品種、または明治時代までに日本人が外来種と掛け合わせて作り出した鶏(日本鶏)とされています。
ただ、その多くが天然記念物のためそのまま食べることはできません。このため、日本鶏の血統が50%以上入った交配種を地鶏として食用にしているのです。
また、日本鶏の血統を使っても50%以下のものを「銘柄鶏」と分類しています。

飼育方法
農水省の規定を見ると、加工食品、林産物等の品質規格であるJASの対象品目に「地鶏」が入っています。内容は飼育期間は80日以上、生後28日以降は平飼い、1平方メートル10羽以下の飼育密度であることなどが定められています。
※平飼い:鶏舎内、又は屋外において、鶏が床面又は地面を自由に運動出来るようにして、飼育する飼育方法。平飼いのうち、日中屋外において飼育する飼育方法を放飼いといいます。

鶏の血統、飼育方法の指定、JASによる地鶏認定制度など、非常に興味深い事実ばかりだ。100%生粋の地鶏さんは天然記念物なので非食用(本当の地鶏は食べてはいけない)とはまた傑作である。どうやら「地」という字は「地面」や「地元(広い意味で日本)」の意を表すものと考えてよさそうだ。

飽きたら「鶏」を別の単語に置き換えて色々と想像するのもまた一興だろう。ちなみに写真は九州国立博物館にて来年の元旦からはじまる若冲と江戸絵画展にちなんで、公式ブログのid:jakuchuさんより。


鶏関連リンク(随時追加)