恋の病は治せない 二日市温泉

やっさんと2日連続で遊んでみた。

一日目。

14時。天神のビックカメラで予約していたゲームを取りにいくついで、やっさんを呼び寄せる。

Biviの閑散っぷりに驚く。ACTUSしか見るところがない。

冷泉公園の隣に位置する冷泉荘を目指し、一行は中州川端へ。幼少期は冷泉公園でよく遊んでいたのでなじみの場所であったはずが、すっぽり忘れていたため、通りすがりの赤いワンピースを着たお姉さんに声を掛ける。

「あの、すみません。冷泉公園はどちらに行けばよいでしょうか?」
「あっち」

と一言だけのこして去ってゆく。服の色の割にクールな人だ。

お姉さんの指した「あっち」だけでは心許ないので、ここはその筋のプロ、タクシーの運転手のおっちゃんに再度道を尋ね、詳しく教えてもらう。

ひとまず冷泉荘のカフェに入り、喉も渇いたのでアイスコーヒーを頼む。奥の席に座る。隣ではデザインを勉強していると思われる女子学生3人が談笑している。アイスコーヒーはまるで麦茶のような味であったが、店のお姉さんがとてもかわいくておつりがくるくらい。

冷泉荘A棟をまわる。『昭和文学入門』とかいう怪しげな本を見つけて気になる。戸が閉まっている店は入りにくい雰囲気満載。

冷泉荘B棟をまわる。やっさんはデザイナーズ雑貨の店のお兄さんにやたらと気に入られてしまったご様子。

天神に戻り、鯖の味噌煮込み定食を食した後、いつもの爆音コーヒー店へ向かう。岩明均の『ヒストリエ』にハマる。明日は、「温泉に行きたい」、「近場がいい」という二つの条件を同時に満たす二日市温泉へ行くことに決定。23時を過ぎたところで帰路につく。バスがまだあってよかった。


二日目。

「いま西新にいる。」

という電話で目を覚ます。9時18分。

適当に支度を済ませ竹下駅へ向かい、10時2分の電車で乗り合わせる。

二日市駅に着き、ひとまず近くの商店街を散策。たのしぃ。

温泉街が近づいてくると、さび付いたボイラーが目に付く。さび付いたボイラーはどうしてかノスタルジックな気分にさせてくれる。このあたりは鳥居町といって、古びた家屋ではさまれた細い路地の先に、白い鳥居が見える場所がある。どうやら明治に建てられた石の鳥居で、石工なんとか為兵衛とか、現代で言うところの協賛の欄には、糀屋とか古風な名前などが刻まれている。

温泉街に入り、目的地の御前湯に近づく。紫色の観光案内看板が各所にある。このあたりは「湯町」というすてきな地名がついていることを知る。いくつかの温泉宿のベランダにオレンジ色のタオルが干してあるのが見える。思ってみれば、どうして温泉のタオルはオレンジ色なのだろうか。どこかの宿の2階から、長唄のような音楽が漏れ聞こえてくる。

御前湯に到着。入浴料は200円。さっそく脱衣所へ入ると、いきなり入れ墨のおっさんの生着替えに出くわす。御前湯は「入れ墨お断り」ではないらしい。いいことだ。しばらく湯につかって立ちくらみを味わった後、外でぼーっと涼むのが気持ちが良い。コーヒー牛乳でしめる。

昼食をとりに駅の近くに戻る。小林カレーは気にはなったが、カレーの気分ではなかった。おいしいと評判の暖暮とかいうラーメン屋を目指しもたが、スナックの乱立する小道の途中、気になる寿司屋を発見してしまい、寿司定食A(茶碗蒸し付き)を食することに決定。

13時20分。店に入ると、驚いたような顔で「いらっしゃい」と言って、大将が迎えてくれる。他に客はいない。寿司定食Aを二人前頼む。大将はアタック25を見つつ、寿司をにぎりつつ、回答者の間違いや、パネルの位置取りにひとつひとつ文句をつけている。我々二人は無言である。しばらくして店の看板を仕舞いに外へ出ていく。ランチタイムが終わったのに、看板を出しっぱなしにしてしまっていたのかもしれない。なにやら誰か知り合いに向かって大声で「もうすぐ出ないかん」とか言っているのが聞こえる。中に戻ってきて、今度は我々のカウンター席すぐ後ろの座敷席で生着替えを始める。割烹着を脱いでトランクス一枚のあられもない姿。スラックスに履きかえているのがみえた。このあたりから大将は急にそわそわし出して、食事中の我々の隣でマイルドセブンを吸い始める。我々の顔と腕時計を交互に見ているのが横目にわかる。ついに私はその場の空気にたまりかねて、
「これからおでかけですか?」と聞いてみると、
「はい、そうですね。」と大将は苦笑いしながら答える。
「じゃあ、急いだほうがいいですね。」と客ながら気を遣うと
「いいえ、14時からなので大丈夫です。」

と、見事な接客。13時50分の出来事であった。

「ごちそうさまでした。」
「なんだか急がせてしまったみたいですみません。」
「いえいえ。おいしかったです。ごちそうさまです。」

笑顔で店を出る。

いえいえ。おいしい話のネタをいただきました。ごちそうさまです。

午前中から遊ぶと一日が長い。それからも色々とあったようななかったような感じだが、ここに書き記すほどのことはない。

そして今に至るが、いまだ恋の病は治っていない。