re:アジアの美術(草稿/現在3話まで)【長文注意】

今日は大変な一日だった。変化に乏しい毎日を送ってる自分としては、こんなにもめくるめく、事件に次々と巻き込まれる日はやたらと疲れる。

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 まず、今日はレポート提出のため講義を丸一日分サボった。それはいい。それはいいとしよう。レポート早くから手つけてりゃよかったんだけども。しかし、そんな過去のことをいちいち後悔してても、無為に過ごした時間は二度とこの手に戻らない。今日8日が期限だったから、僕はとにかく、やるべきことをやるしかなかった。ただそれだけだ。

 サボってまでして設けた時間で、僕は今日また福岡アジア美術館に行った。なんでかっていうと、「さあレポートちゃっちゃと仕上げるぞ!」と思ったら書けない書けない。全く書けない。やっぱり記憶と憶測だけじゃあレポートは書けない。しっかり身の詰まった、ジューシーで食べ応えのある餃子のような文章を書くには、味を支えるバックボーン、つまり具材の下ごしらえに手を抜かないことがその秘訣だ。だからそのために、アジ美の図書閲覧室にある資料が必要だった。月並みの内容をレトリックで水増ししたり、著名人の名前を権威的にそこはかとなく用いまくって、教官の評価者としての心理に揺さぶりをかける、小手先だけの知ったか作戦は、たしかに今まで何度も手抜きのためにやったけども、今回ばかりは自分のプライドが許さない。好きで受講したからには、レポートには力を入れてやりたい。そう思ったわけだ。

 これが悲劇の始まりだ。「悲劇は、主人公の欠点によってもたらされるものではなく、むしろ彼の美点によってもたらされるものだ。だから悲劇なのだ。」と、『海辺のカフカ』では、ソフォクレスの『オイディプス王』をそういった文脈で引用していたっけな。うんうん、そうだそうだ。理想の高い人間は、結局自らの理想によって我が身を滅ぼすんだ。卑近な例を挙げると、いい歳になっても男の条件にはウルサイ高齢独身女性か。卑近すぎるか。あ、いやしかし、僕だけは、少なくとも僕だけは違う。僕の悲劇は、欠点と美点のその両方によってもたらされる。いわば、欠点の“めんどくさがり”と、美点の“凝り性”との相互作用による、留まることを知らない悲劇のデフレスパイラルだ。いや、悲劇じゃないや、単なる堕落だなこれは。


これから語られるのは、僕の堕落の物語だ。


第一話「とくダネ!」

 早朝4時起床。さあやるぞ!とワープロソフトを開いてみたはいいが、資料が手元になければ全く書けないことを早くも悟ったので、とりあえずアジ美が開館する10時まで、ネットやったり、「とくダネ!」を見たりして過ごすことに決めた。ちなみに僕はこっそりササキョン佐々木恭子アナ)ファンだ。ササキョンはエロい。しかも東大出身。たとえ偽りでもいい、女は知性だ。東大出身といえば丸川珠代アナも好きだ。が、菊川怜だけはいただけない。で、今頃1限目が始まっただろうなあ…とか思いつつ、その後も「ももち浜ストア」まで無駄にテレビを見続けた。

 そういや、「とくダネ!」でやってたけど、野口英世(新千円)のテスト印刷ヴァージョンがヤフオクに出品されて、イタズラで99億円だと。もしかしたら2chで祭でもあったのか。途中、日本のリサイクル事情の話がちょろっとあったな。古紙の海外流出ルートの話が出ててなかなか興味深かった。物質循環フローは地球規模で見なければならない。『循環型社会─吉田文和・著』を読んだだけで、僕はもう事情通気取りだ。しかしまあ…とくダネ!のコメンテーターやってたあの女はなんだ。コメントがデタラメ過ぎ。忘れたけど、なんかすごいコメントしてたぞ。あんなものを電波に乗せるべきではないな。見てるこっちが恥ずかしかったし。もちろん、もう片方の斉藤孝氏はまともだったが。あ、サトエリは特別だから、いつも眠そうにしてるけど許す。しかし何故か、とくダネ!の内容を全部記述できるくらい記憶してるな。金融庁UFJ刑事告訴やら、松嶋菜々子の出産会見やら、水野真紀の妊娠報告やら、カンチこと織田裕二の「月9」やら、「ヒッキーおめえJapaneeasyはねえだろ」やらと。

 そういや、朝飯に食ったイワシの煮付けは、薬味のショウガが効いててなかなかうまかったなあ。かしわ飯のおかずに、ひとかけらずつ味わいながらちびちびと食ってた。思えば、僕の小さい頃は、小骨の多い魚が特に苦手で、魚一般があまり好きになれなかった。母親に身だけほぐしてもらって食べさせてもらっていた。まったく世話の焼ける子ですこと。しかし今じゃあ、上手に箸を使って、つるっとキレイに身をほぐすことができるようになった。魚は好物。特に鯖と秋刀魚が好きだ。

 とかなんとかやってる間に、10時にアジ美到着をメドにしていたつもりが、もう12時ではないか。毎度のことだが、冬場のエンジンのように、点火までにやたらと時間のかかる自分に、ほとほと嫌気がさした。


レポート提出のタイムリミットは、残すところあと6時間だ。


第二話「リバレインへ」

 台風接近中のためか、外は曇っていて少し寒そうだったので、少しばかり厚着をしていくことにした。あせたピンク色の丸首インナーに、細かく白とブルーのストライプが入った、薄くてテロテロで丈の短い古着ジャケットを羽織る。ボタンで前をとめる。下はグレーの綿パンツに、赤茶の革靴をつっかける。黒のニットをかぶり、筆記具を入れたトートバッグを肩にかついで、原チャにまたがって…さあ、やっと出発だ。

 夏はロクにバイトもせずダラダラしてたので、服を買う経済的余裕もなく、近頃はとことん着る服がない。もらいものやら、一昨年の着回しやらで、毎日、かなり苦しい格好をしている。学校に行くだけでも恥ずかしい。とまあ自意識過剰だから気にしすぎてるだけで、実際のところ、下級生達には「あのオッサンたまに見るよなあ」くらいにしか思われてないだろう。いつもそう自分に言い聞かせている。

 リバレインビル前に着いた頃には、すでに時刻は12時30分をまわっていた。このあたりはオフィス街のど真ん中な上、ちょうど今がランチタイムだったので、コンクリート製の牢獄から解放されたばかりのOLや、中年サラリーマン達でごった返していた。来週にはカードの引き落としがあるので、僕はまず福岡銀行に寄ってお金を入れておいた。都合良く、福銀のちょうど真向かいがリバレインになっている。だからいつも福銀の駐車場に原チャをとめている。福銀から出てきた僕は、福銀とリバレインを分かつ道路を横断し、とうとう目的地、リバレインビルへと、堂々足を踏み入れることができたのだ。ここまで、実に長く険しい道のりだった。しかし、僕の闘いは今始まったばかりだ。


第三話「喫煙休憩」

 正面から向かって右側の入り口から入る。ここからエスカレーターであがって7階が目的地のアジア美術館だ。「あ、タバコなかったな」と思い、2階の喫煙ルームを尻目に、自販機のある6階を目指す。あがる途中、右手にはガラス越しに、下川端一帯の景色が望める。そこから、福銀の自転車置き場にあるマイ原付の姿を確認する。まだ盗難にあったことはない。原付が盗まれることなんて滅多にあるものではないが。

 リバレインは、ブランド物の店や、高級家具の店が主に集まっている建物だ。そのせいか、すれ違う人達は、従業員や会社員を覗けば、やはり、暇を持て余したお金持ち風のマダム達が多いようだ。たいてい3〜4匹ほどで群れをなして行動している。一度捕まったら厄介なことになる。僕はなんとか無事6階まで辿り着き、自販機のある方へと向かう。財布から千円札をとりだし、セブンスターをひとつ買う。そして僕はまた、2階の喫煙コーナーを目指す。下りのエスカレーターに乗る。

 このあいだ見つけたばかりだが、2階の喫煙コーナーはとても居心地がいい。僕のお気に入りの場所だ。こげ茶色の木製ベンチがいくつかあり、観葉植物や、公衆電話、2Fの案内板などが置かれている。携帯電話の充電器まである(200円)。トイレもすぐ横だ。ベンチには、本を読んで時間を潰すサラリーマンや、弁当を広げたOL達がいる。もちろん金持ちマダムの集団も。2階の奥は、グッチやルイ・ヴィトンセルジオ・ロッシなど、ブランドショップ群が集まっているので、時折、黒いパンツスーツ姿の、いかにも高級ブランドショップ店員臭のするキラキラキレイなお姉さん方が、奥から颯爽と現れ、いそいそとトイレへ向かう様を拝見できる。もちろん僕は、そういう類の変態趣味なわけじゃない。ただタバコを吸いに来ただけだ。僕が座った隣に、少し大人しそうで綺麗なOLさんが座る。ビリジアンのブレザーに、クリーム色のスカート、艶のある黒のパンプス。抹茶色の包みの小さな弁当箱を手に持っている。この人は緑が好きなんだろうか。とにかく、昼食をここで済ませるつもりらしい。食事中に隣でタバコなんか吸って、ちょっと悪いかなとも思い、僕は一服を早めに済ませ、席を立つ。


本題に入る前にこれだけ書ける自分もなかなかすごい。この時点で、時刻13:00になりかけていた。タイムリミットはあと5時間だ。


つづく…(執筆中)