弾丸は稠密なる大気の間を長く冒衝飛過せざるべからず

「……日記の更新止まったね。」
「うん。」
「もう携帯で写真撮るのも飽きた?」
「うん。」
「やっぱり。」
「コメントしづらい?」
「特につっこむところもないし…って感じかな。」
「そっか。」
「うん。」
「うん。それより近頃右の奥歯が痛いな。」
「じゃあ歯医者いかなきゃ。」
「うん。」
「あ、物理の試験どうだった?」
「全くダメ。ちょっと甘く見過ぎた。」
「らしいね。卒業やばいんじゃない?」
「うん。」
「すき?」
「うん?」
「うん。」
「僕の日記、読んでてもつまらないでしょ?」
「そうね。でも個人の日記だし、気にすることないよ。」
「いや、公開するからにはそういうわけにはいかないよ。」
「なにかしら使命、というより責任を感じる?」
「そうかも。」
「やっぱり。」
「ところでfunとinterestingの違いはなに?」
「全然違うよ。で、どっちも『おもしろい』で言い表せるってこと?」
「話を先取りしすぎだよ。話すことがなくなった。」
「だってじれったいから。」
「どうしたらいい?」
「目隠しをして崖の方に走る。」
「ああ、このあいだの日記の話ね。ちゃんと読んでるんだ。」
「心配しなくても読んでるよ。」
「ありがとう。じゃあ、目隠しの布に描いた目を覆わなきゃね。」
「そういうところがつまらないと思う。」
「ごもっとも。」
「言葉で着飾っていたいだけなのね。」
「動機としては不純だろうか。」
「地球にやさしい商品を買うのと同じくらい。」
「どうだろう。先の結果なんて誰にもわかりっこない。宝くじで夢を買うのと一緒だよ。気持ちを買うんだ。夢を買うんだ。可能性を買うんだ。投機こそ人間の誇るべき行為じゃないか。たとえ再生紙が免罪符と本質的に同じようなものだったとしても、動機がどんなに不純でも、後にどうあれ、現在それが良いと信じる結果につながる可能性を持つなら。」
自己欺瞞。手段の正当化。破滅を望む人間のルーティンワークってやつね。それを望まない人間まで巻き込んでおいて、責任は取らない。迷惑な人間。それにしても唐突ね。」
「美徳は捨てられない。」
「そう言って、日の光を浴びるのがこわいだけなんでしょう?」
「……じゃあ、僕は一体何を書けばいい?」


「その話には興味がないわ。」